リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「なあ。高尾山、いつ行く?」
「は?」

思ってもいなかった牧野の問いかけに、明子は思わず牧野に目を向けてしまった。
作戦成功というように、牧野は得意げに笑っていた。
やられたと、明子は牧野の術中にまんまとはまったことに気付いて、唇を小さく尖らせて拗ねた。
手のひらで、いいように転がされている。
そんな感じで、腹が立った。

「手、離してくださいよ」
「やだね。悪いことしてやるって言ったろ」
「なにが悪いことしてやるですか、もう」

バカですかとむくれながら、明子はその手を振り払うこともできなかった。
お互いの体温で少しずつ、二人の手は温かくなっていく。

「今月末の休み、どうだ?」
「行きませんよ。なんで、牧野さんと山に行かなきゃならないんですか」
「連れてってやるって約束したろ」
「一方的すぎません? 私、行くなんて行ってませんよ」
「楽しみにしてるって言っただろうが」

言われて、明子は確かにそう答えたことを思い出し、つい、呆れたため息をこぼす。


(社交辞令で言った、あんな言葉)
(本気にしていたの?)


思いがけず、牧野がけっこう本気で山に誘っていたことを知り、明子は戸惑う。
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