リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「和菓子屋の三軒、四軒隣。小さい店だけどな」
「ああ。ありますね」
「こ洒落た店じゃないけどな、美味いんだ」

牧野の言葉に、明子は驚いたように牧野を見た。
確かに、駅前にそんな名前の店があるが、明子は入ったことがない。
馴染みでないと入りづらい雰囲気のある店だった。
牧野が住んでいる場所は知らないが、明子の家からは離れているはずだ。
それなのに、明子の家から近いその店にちょくちょく顔を出しているのだろうかと、不思議になった。

「よく、行くんですか?」

疑問をそのまま口にすると、牧野から意外な言葉が返されてきた。

「しばらく行ってないけどな。昔はよく行ってたんだ。十年くらい前まで、実家が駅の反対側にあってな」
「そうなんですか?」

初めて聞く話に、明子は目を丸くした。


(ああ。そういえば……)
(ピザ屋のバイトで、ウチの辺りもよく配達に来ていたって、言っていたっけ)
(ということは、駅東のあのピザ屋で、バイトしていたのかな)


初めて牧野の車に乗った日に聞いた話を思い出した明子は、普段、あまり行くことのない駅の東口周辺を思い出しながら、ふうんと小さく頷くように首を縦に振った。

「まあ、俺は二十歳を過ぎたら、すぐに一人暮らし始めちまって、家は出たけどな。それでも、実家に帰ると、よく食べて行っていたんだ」

そのまま「あの店、入ったことないのか」と逆に問われ、明子は小さくしっかり頷いた。

「そっか。そこでいいか? なんか、久しぶりに行って見たくなった」

おばちゃん、元気かなあと懐かしそうに目を細める牧野の横顔を、明子はただ見つめ続けた。
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