リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
『三十代の独身貴族が、沢山いるんだよ』

義兄のその例えに、明子の笑みは続く。

「義兄さん。今時、独身貴族なんて言葉、使いませんよ」

くすりくすりと笑う明子に、俺はバブル世代なんだよと、義兄も笑った。
姪たちの名前を挙げて、子どもたちも連れていくから一緒にいこうよと、義兄は誘いの言葉を続ける。

『明子ちゃん。今の明子ちゃんには、仕事抜きの付き合いとかも、少しあったほうがいいじゃないかな。見合いだなんて思わないで、いろんな人がいるから、新しい友人を作るようなつもりで、気楽に息抜きにおいでよ』

閉じこもっていないで、外に出ておいでと言う義兄の言葉が、明子の心に染みていった。


(そうだね)
(そんな時間が、必要なのかもしれない)


明子は、自分にそう言い聞かせた。
義兄の言うとおり、仕事がなくなったら、今の自分には誰もいないような気がした。
なにもないような気がした。

火にかけていた薬缶が、けたたましく、ピーと音を鳴らす。

それが、なにかの合図だったかのように、火を止めた明子は「判りました」と、さっぱりとした声で義兄に伝えた。

「朝、そっちに行けばいいですか?」
『十時頃、そっちに迎えに行くよ』

義兄はそう言って、明子の家から車で二十分ほどで行ける場所にある運動公園の名を告げた。
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