リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
温かいお茶を飲んで、一息ついたら、ようやく、胃の不快感も治まってきた。


(少し、なにか食べないとね)


そんなことを考えて、明子はのろのろと冷蔵庫を開けた。
けれど、なにも作る気になれなかった。
昨日までは、なにかを作ろうと考えるだけで、わくわくとした楽しい気持ちが沸いてきたのに、今はそんなことを考えることすら、億劫だった。
ダイエットを決意する前の、ダメ女にもどってしまったようだった。

冷蔵庫を閉めて、扉に張り付けある宝物の切抜きを見る。


(関ちゃん)
(キミの、キラキラ魔法にも、もう、かからなくなっちゃったよ。あたし)
(どうしよう)
(助けてよ)


どれだけ切り抜きを見つめても、朝ご飯を作る気力すら沸いてこない。


(お弁当を作っていくのも、もう、止めようかな)
(また、外食でいいかな)
(なんか、もう)
(全部が面倒)
(会議室で食べるのも、イヤだもの)
(もう、なにもかもが面倒くさい)
(大塚さん、明日っから出てくるんだっけ)
(嫌味をたらたら、言われるんだろうなあ)
(吉田係長も、かな)
(しつこそうだよねえ)
(お嬢様は、どうしよう)
(あれこれ、絡んでくるんだろうなあ)


そんなことをうだうだと考えながら、牧野にやれと言われた仕事を思い出して、明子の胸が軋んだ。
そんなところには、行きたくないよと、ぞう必死に抗っているようだった。


(会ってしまったら……)
(どうしよう)
(ううん、きっと、会ってしまう)
(変わり果てた、こんな無様な姿を見て、なんて思うのかな)
(哀れむ?)
(笑う?)
(幸せ、なんだろうな。きっと)
(奥さんも、まだ働いでいるのかな、あの会社で)


心に浮かんだ顔に、気持ちが萎んでいくようだった。
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