リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
突然、勢いよく開いたドアに、牧野は思い切り驚いている顔だった。
けれど、そこにある明子の姿を認めると、疲労の色がありありと浮かび上がっている顔に、普段、余り見ることのない穏やかな笑みを浮かべ、のん気な声で朝の挨拶を明子にしてきた。
明子は、思わず声を張り上げた。

「おはようじゃないですよっ なにをしてるんですかっ、こんなところでっ 風邪でも引いたら」
「声、デカいって。頭に響く」

壁に体を預けながら、ゆらりと立ち上がった牧野は、明子の顔を見て、また笑った。

「よかった。無事で。うん。元気そうだ」

少しパツパツしてるけどな、このあたり。
そう言って、明子の眦に触れた牧野のその手は、氷のように冷たかった。

「一晩中、いたんですか。こんなとこに」
「電話、いくら掛けても繋がらないし。どこを探しても見つからないし」

困ったよと肩を竦める牧野に、明子の目が潤み始める。


(どうして?)
(どうして、そんな顔をするの?)
(どうして、探したりするの?)
(今度こそ、あなたを諦めようとしているのに)
(叶わないなら、もう諦めさせてほしいのに)
(どうして?)
(どうして?)


溢れ出そうな涙は見せまいと、俯き目を伏せる明子の耳に、牧野の声が届いた。

「泣くな」

静かな牧野の声が、届いた。
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