リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
牧野の手が、明子の頬からするりと離れ、ニット帽子の上から、子どもをあやすような仕草で、明子の頭をぽんぽんと叩いた。

「出かけるのか? 上、なにか羽織っていったほうがいいぞ。けっこう、寒い。風邪引くぞ」

優しい声でそう明子に告げた牧野は、踵を返し「じゃあな」と言って、立ち去ろうとした。
慌ててその腕を取り、明子は牧野を引き止めた。

「休んでいってください」
「大丈夫だよ」
「ダメですよ。車、どこですか? 駅前、止めたままですか? 私、取ってきますから」

ここまで車で来たならば、車の中で待っていればいいはずだ。
こんなところで座っている必要はないと、ようやくその事実に思い至り、明子は目を吊り上げた。

「こんな無茶して。金曜から、ロクに寝てないじゃないですか」
「大丈夫だよ」
「ダメです。居眠りなんてしたら、どうするんですか」
「ダメそうなら、車の中で寝てから帰るよ」
「だったら、ウチで、休んでいってください。あがってください」

腕を引く明子に、振り返った牧野の瞳が揺らいでいた。
戸惑い揺れ惑う瞳で、数秒、明子を見つめて、笑う。
腕を引く明子のその手に従うように、牧野も玄関に入った。
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