リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「ただ、考えてほしいんだ。これから、どうするのか。ちゃんと考えてほしいんだ。お前、ずっと、そうしているのか? ずっと、そこで、立ち止まったままでいるのか?」
静かだけれど、強い響きを持ったその声に、明子は手を握り締めた。
「きっかけに、して欲しかったんだよ。このままでいいのかって。考える、そのきっかけに、して欲しかった」
静かな、静かな、音も光もない、深い海の底に沈んでいるかのような静かな時に、二人は包まれていった。
「俺もさ、離婚したあとは、かなりボロボロでさ。着るもんなんか、どうでもよくなって、食うもんなんて、なんでもよくて。人付き合いも面倒になって。眠れなくて痩せて。ストレスが溜まって太って。仕事だけは、なんとかしていたけど、酷い有様だった。知ってるだろ?」
肩越しに、明子の様子を確かめるように視線を投げてきた牧野に、明子もこくりと頷いた。
「ばったり、会っちまった。ボロボロで、ヨレヨレの、くたびれたおっさんになっちまったときに、偶然、あいつに会っちまった。友人か誰かと一緒でな、生まれたばかりの子どもを乗せたベビーカーを引いて、幸せのど真ん中にいる、キレイなあいつに会っちまった。話はしてない。でも、目が合った。目が合って、俺を見て、あいつは笑った。どうしたの? なにしてるの? まだ、あんなこと引きずっているの? そんなみっともない格好して。しょうがないわね。そんな顔して、笑った」
告げるその声は妙に軽快で、けれど、だからこそ、明子には牧野が立ち直るまでに流してきた、涙が見えた。
静かだけれど、強い響きを持ったその声に、明子は手を握り締めた。
「きっかけに、して欲しかったんだよ。このままでいいのかって。考える、そのきっかけに、して欲しかった」
静かな、静かな、音も光もない、深い海の底に沈んでいるかのような静かな時に、二人は包まれていった。
「俺もさ、離婚したあとは、かなりボロボロでさ。着るもんなんか、どうでもよくなって、食うもんなんて、なんでもよくて。人付き合いも面倒になって。眠れなくて痩せて。ストレスが溜まって太って。仕事だけは、なんとかしていたけど、酷い有様だった。知ってるだろ?」
肩越しに、明子の様子を確かめるように視線を投げてきた牧野に、明子もこくりと頷いた。
「ばったり、会っちまった。ボロボロで、ヨレヨレの、くたびれたおっさんになっちまったときに、偶然、あいつに会っちまった。友人か誰かと一緒でな、生まれたばかりの子どもを乗せたベビーカーを引いて、幸せのど真ん中にいる、キレイなあいつに会っちまった。話はしてない。でも、目が合った。目が合って、俺を見て、あいつは笑った。どうしたの? なにしてるの? まだ、あんなこと引きずっているの? そんなみっともない格好して。しょうがないわね。そんな顔して、笑った」
告げるその声は妙に軽快で、けれど、だからこそ、明子には牧野が立ち直るまでに流してきた、涙が見えた。