リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
日曜の昼時。
そんな時間帯のスーパーマーケットにやって来るのは、いつ以来だろうと、明子は大混雑の店内に恐れ慄いた。
土曜日のタイムサービス帯の混雑もすごいけれど、日曜のこの時間は、土曜とはまた違う様相だった。
家族連れで買い物に来る者も多く、夜の遅い買い物のときにはあまり見かけることのない小さな子どもや、明らかに買い物慣れしていない、荷物持ち要員として駆り出された既婚男性の姿も多かった。

生魚売り場には、平日ではあまり見かけない、まだ捌かれていない状態の魚が数多く並んでいた。

「お姉さん。今日はいいサバが、入ってるよ」

その売り場前で、威勢のいい声で客を呼び込んでいる少し年配の男が、明子にそう声をかけてきた。

「あと、シャケも、今日のは特に脂がノってるよ。ブリより、今日はシャケのほうが、お薦めだよ」

その声につられて、並ぶ魚に目を走らせた。
確かに、丸々と太ったサバは美味しそうだし、価格もお手ごろだった。
一尾で三〇〇円もしない。
けれど、この大きさの魚を、きれいに捌ける自信がなかった。


(イワシやアジくらいなら、自分で下ろしちゃうんだけど)
(これは、どうかなあ)
(この大きさは、やったことないからなあ)


そんなことを考えていると、男はさらに明子にこう告げた。

「言ってくれれば、下ろすからね。お姉さん」

言われて初めて、それに気づく。
なるほど、その手があったかと頷きながら、明子は自分に苦笑した。
牧野曰くの「人を頼れない」この性格は、本当に改めないと、自分の首を絞めるだけだわと、しみじみそう実感した。
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