リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「サバ、三枚に下ろしてもらっていいですか?」
「あいよ。一匹でいいかい」
「んー…、二つ、ください」

なんとなく、牧野の顔が浮かんで、二尾と注文してしまった。
昔から、肉よりも魚を、牧野は好んで食べていた。
もちろん、肉もよく食べる。
ただ、肉か魚かと尋ねられれば、即答で魚と言うのは間違いない。


(迷惑料代わりに、なにか、持って帰れそうな惣菜を作ろうかな)
(少し、日持ちするものがいいわよね)


そんなことを、ぼんやりと、明子は頭の片隅で考えていた。

「サバは、なんにするんだい?」
「味噌煮にしようかなって」

男の問いかけに、明子はさらりとそう答えた。


(味噌煮。牧野さんも食べるかな?)
(ま、残るようなら、竜田揚げにしてもいいしね)
(あんまりこってりさせないで、あっさりな味噌煮にしよう)


明子の答えを聞いて、男は「味噌煮か。いいねえ」と愛想良く笑う。

「じゃあ、四つにしておくよ、お姉さん」

よし。これが丸々してていいな。
男は魚を吟味するように眺めて、二尾の鯖を選ぶと、ガラスで仕切られた調理場の中にいる男に、陳列棚越しに魚を渡した。
手際よく、鯖を捌いていく男の手元を、明子は外から感心しながら眺めていた。

「あいよ。奥さん」

調理場の男のその言葉に、どきりとなった。
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