リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
こっそりと、物音をたてないよう気を配って家を出てきた。
この屍を越えて行けとでも言うように横たわった、もう何時間も玄関を占拠している大男は、思いのほか厄介な障害物だったけれど、なんとかすり抜け外に出た。

念のため、枕元に置き手紙のようなメモを一枚、残してきた。


(はてさて。まだ、寝ているのかな)
(眠りの森の王子は)


中の様子を窺い見るように、静かに玄関を開けると、そこに横たわっているはずの巨体はなくなっていた。
その代わり、大きな男物の革靴が一足分、隅の方に並べ置かれていた。
どうやら、あれほど上がることを拒んでた牧野も、ここに至っては仕方ないと観念したらしい。
最初からそうしてくれればよかったのにと、明子はまったくもうと言いながら、ぷくりと頬を膨らませて、大荷物を抱えて中に入った。


静かな、室内だった。
キッチンに荷物を置きながら、リビングを見ると、ソファーに体を投げ出すように横たわって眠っている牧野の姿があった。
窓を、少し開けたらしい。
カーテンが、僅かな風にふわふわと揺れていた。
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