リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
鯖に湯を掛けていたころから、背後に人の気配があることには気付いていた。
椅子をひいて座ったことは判ったが、振り返らなかった。
『関ちゃん』の仇を取るという使命が、明子はあった。
だからこそ、今ここで甘い顔は見せるものかと、明子は背中を向けていた。

「な。これ、味見していいか?」

怒り沸々とたぎらせている、そんな明子の心中など察した様子もなく、魚好きの『関ちゃん』の仇は、テーブルの上の鮪に目を付け、餌をねだるかのように容器をシャカシャカと動かしているようだった。
そう尋ねてくると言うことは、一応、人様の家で、無断のつまみ食いをすることには抵抗があるくらいの感覚は、持ち合わせているのかと苦笑した。


(まあ、そこは、大人になったわねと誉めてあげるわ)
(餌を前に、待てを覚えたのね)


その昔。
うっかり油断した隙に、弁当をキレイに片付けられたという記憶があるだけに、許可が出るまで待っている牧野を、大変よくできましたと誉めてあげたい気分になった。


(いやいや。そうじゃないから)
(ダメダメ。甘い顔しちゃ)
(誉めてる場合じゃ、ないから)
(仇を、取らなきゃいけないのっ)
(関ちゃんの仇。ぜったい取らなきゃいしけないの)


だから甘い顔はしてはダメと、そう決意し直した明子は、口をへの字に曲げた顔でくるりと振り向いた。
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