リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「玄関で寝てたら、野菜かなんか切ってる音が聞こえてきて。飯、作っているんだなって、夢ん中で考えてた。ちゃんと料理とかしているやつって、音とか匂いで判るよな」
「夢の中って……。起きたんじゃないんですか? 見に行ったら、足を伸ばして寝てましたよ」
「覚えてねえよ、そんなの。起きたのかもしれねえし、寝たままだったかもしれねえし」
「あんなとこで、寝ないでくださいよ。大変だったんですからね」
「悪かったよ。寝るつもりはなかったんだけどな、あのお茶、温まるな。体がポカポカしてきたら、睡魔に負けた」
「睡魔に負けたから、体がポカポカしてきたじゃないんですか」
「子どもじゃねえって」

ちっと舌を鳴らして、気持ち拗ねたような顔になった牧野に、明子はくすりと小さく笑う。
予測していなかった事態によって晒してしまった失態に、自分でもどう対処したらいいのか判らずに、困っているような感じに見えた。

「ちとな。女の部屋に入るなんて、しばらくなかったからな、緊張したんだよ」
「なにを言ってんだか。独身になってさらにモテモテって、噂ですよ」
「ひでえな。マジで、玄関入るだけで、精一杯だったんだぞ。いきなり来ちまったからさ」

拗ねて、ふてくされているような口調に、明子は「俺様なくせ」と、冷やかすような口調で言い返した。
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