リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「辛いの、平気ですよね?」
「ん。きんぴらは、やっぱりピリッとこないとな」

唐辛子の香りが出てきたところで、レンコンを入れて中火にし、焦がさないように炒めていく。
その様子を、牧野は感心しながら楽しそうに眺めていた。

「あんがい、ちゃんと生活してたんだな」

安心した。
感心している穏やかな声だった。からかっているような声ではなかった。
その言葉に、明子の手元を眺めながら、隣にずっと寄り添うように立っている牧野の顔を、明子は不思議そうに、ちらりと上目で見た。

「もっと、荒れた暮らしぶりかなって、少し心配だった。なんか、いつも外で飯食ってるし、着るもんなんかも、ちゃんとはしてるけど、頓着してる様子ないし」

牧野の言葉に、明子はどきりとなった。今までの生活ぶりを見透かされている感じで、内心、焦った。

「でも、部屋はキレイに片付いてるし、料理なんかも、そうやってちゃんとやってたんだなって」

本気で感心している牧野の様子に、いたたまれないってこういうことかと、明子は思わず懺悔したくなるのを、懸命に堪えた。


(『関ちゃん』)
(いや、『文隆くん』)
(いやいや、『高杉兄弟』)
(あ、ありがとう)
(あたしに、一大決心させてくれて)


二週間ほど前の部屋だったら、あがってくれなど口が裂けても言えなかったと、明子は冷や汗をかく思いで、安堵のため息を心の中でこぼした。
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