リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
レンコンに程よく火が通ったところで、酒、砂糖、醤油、味醂を入れて味を付ける。
汁気がなくなるまで炒めれば完成だ。
甘い香りに鼻をヒクヒクさせていた牧野は、早速とばかりに箸を延ばしてきた。

「まだ、できていませんって」
「いいの、いいの、味見、味見」

味見というには、遠慮の欠片もなくがっつりと、レンコンを箸でつまみ上げて嬉しそうに頬ばる牧野を見て、これができたら、なにか作ってやろうと明子は決めた。
お腹が空いているに違いないと、二度、三度、味見を繰り返す牧野を見て、そう判断した。

「ま。正直に言えば、いろいろと生々しいものも見て、どきどきしたけどな」

味見をしながら呑気な口調で放ったその言葉に、なんのことだろうと明子は牧野を見上げ、首を傾げた。


(生々しい、もの?)
(なに、それ?)


どこかバツが悪そうな顔で、でも、少し面白がっているような微妙な顔つきで、牧野は明子をちらりと横目で眺めた。

「なんです、それ。切り抜きですか?」
「あー。まあ。あれはな。笑えたからいいや」
「ひどい。私の大切な」
「関ちゃんなんだろ。判ったよ。アレ、あれだろ。夜中になんか出てるヤツ」

言いたいことは伝わったけれど、あまりにもざっくりしたその言い方に、明子は苦笑いを浮かべるしかなかった。
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