リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
だからこそ、同じ過ちを繰り返さないと、そうきつく心に決めて、彼女を傍らに取り戻してからはずっと、その接し方には気を遣ってきた。

近寄りすぎず。
でも、離れすぎず。

彼女が、心地よく感じてくれる距離を探して、それを保ち続けることに、神経を集中させていた。

けれど、この手を伸ばして、あの腕を掴んでしまったら……
もう、その感情を抑えていることができなくなった。

たった、二週間ほどのことなのに。
もしも、また彼女を失ったら、この心の一部は今度こそ本当に、人らしい感情など無くしてしまうくらい壊れてしまうとそう思うほどに。
彼女を心の奥、とても深いところにまで、あっという間に引き込んでしまっていたことに、牧野自身が戸惑い、驚いていた。
そして、確信したのだ。
今でもあのころと変わらず、彼女が好きだと。
そう確信した。


(なあ)
(もう、吹っ切ってくれよ)
(お前のこと、捨てていった男のことなんか、お前の中から追い出してくれよ)
(俺は、あんがい、嫉妬深いんだ)
(周りに呆れられるほど、独占欲が強くて、執着してしまうんだ)
(他の誰かを、その心に居座らせたままのお前じゃ、多分、きっと、すぐに許せなくなる)
(そいつを追い出すためなら、お前のその心を、粉々に砕いて、お前を深く傷つけ壊してしまうことさえ、きっと、俺は、躊躇わないと思うんだ)
(だから、そんな男、追い出してくれよ)


今でもまだ、その心の中に、かつて、明子を愛し、明子が愛した、そして明子に深い傷を残して去っていった男がいることを、逃げ出した彼女の背中が教えていた。

再び、脳裏に浮かんだ、全てを拒絶しているようなその背中に、牧野はそう呼びかけ続けた。
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