リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
あがって休んでいくようにと勧める彼女に、お前はバカと、内心、呆れていた。
寝不足で、ほぼ理性がなくなりかけている、いろんなことにこれでもかというくらい飢えている狼を、簡単に部屋に入れようとするなよと、腹の中で明子に諭していた。
その無事を確認できたから。
自分を抑えられているうちに、一旦彼女から離れようとしたのに、引き止められて焦った。
部屋の中にまで入ってしまったら、話をするより先に、問答無用で彼女を押し倒してしまいそうで、だから、懸命に玄関に留まった。
もしも、踏み込んでしまったその部屋の中に、男の影など見つけてしまったら……
多分、もう理性など欠片もなくしてしまうと、そう思った。
それくらい、ドロドロでグチャグチャで、自分を見失いつつあったのだ。
彼女の泣き晴らしたその顔に、これ以上、彼女を傷つけるなという警告が聞こえ、牧野の理性は辛うじて繋ぎ止められていた。
明子の差し出されたあの一杯の茶が、牧野のそんな強張り高まっていた感情を、驚くほどするすると解きほぐしてくれた。
だから、切れる寸前だった理性の糸を修復し、穏やかに明子に語りかけていることができた。
届いてくれ。
伝わってくれ。
そんな願いと祈りを込めて。
静かに、明子に語りかけていることが出来た。
助かったなと、今になって、やっと本心からそう実感できた。
あのとき、欲望のままに暴走していたら、きっと取り返しのつかないことになっていた。
そう思う。
(助かった)
もう一度、心の中でそう呟いて、牧野は、溢れるほどにたっぷりと湯を這った浴槽に、深々とその身を静めた。
寝不足で、ほぼ理性がなくなりかけている、いろんなことにこれでもかというくらい飢えている狼を、簡単に部屋に入れようとするなよと、腹の中で明子に諭していた。
その無事を確認できたから。
自分を抑えられているうちに、一旦彼女から離れようとしたのに、引き止められて焦った。
部屋の中にまで入ってしまったら、話をするより先に、問答無用で彼女を押し倒してしまいそうで、だから、懸命に玄関に留まった。
もしも、踏み込んでしまったその部屋の中に、男の影など見つけてしまったら……
多分、もう理性など欠片もなくしてしまうと、そう思った。
それくらい、ドロドロでグチャグチャで、自分を見失いつつあったのだ。
彼女の泣き晴らしたその顔に、これ以上、彼女を傷つけるなという警告が聞こえ、牧野の理性は辛うじて繋ぎ止められていた。
明子の差し出されたあの一杯の茶が、牧野のそんな強張り高まっていた感情を、驚くほどするすると解きほぐしてくれた。
だから、切れる寸前だった理性の糸を修復し、穏やかに明子に語りかけていることができた。
届いてくれ。
伝わってくれ。
そんな願いと祈りを込めて。
静かに、明子に語りかけていることが出来た。
助かったなと、今になって、やっと本心からそう実感できた。
あのとき、欲望のままに暴走していたら、きっと取り返しのつかないことになっていた。
そう思う。
(助かった)
もう一度、心の中でそう呟いて、牧野は、溢れるほどにたっぷりと湯を這った浴槽に、深々とその身を静めた。