リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
途中、給湯室で喋り込んでいる木村を見かけた明子は、おはようの挨拶に「時間っ」と、一言添えた。
それをどう判断するかは、木村に委ねた。
そうして、少しだけ息を切らせた状態で、明子は席に着いた。

いつもより、さらにきっちりとしたスーツに身を包み、一層男前度が上がっている牧野が、そんな明子にちらりと目を向け、笑った。


なにをしてるんだ。
お前は。


そんな言葉が聞こえたようで、あなたのせいですよっと、明子は腹の中で怒鳴り返した。
あんなムカつく現場に居合わせなければ、憂さ晴らしの全速疾走なんて必要なかったのにと、明子は全ての元凶になっている牧野を、忌々しそうに睨んだ。

昨日の今日で、正直、どんな顔で牧野に会えばいいのかと、少しばかり悩みながら、明子は家を出てきた。
けれど、結果的にはいつもより遅い出社となり、ぞろぞろと人が集まり始めた室内の喧騒の中で、明子はその気まずさは紛らすことができた。
また、横目でちらりと牧野を見る。
やっぱり、目を細めて面白そうに笑っているその顔に、明子の頬が気持ち膨らんだ。
けれど、牧野も同じだったのか、明子をそうやって笑いながらも、なんとなくその表情には安堵の色が浮かんでいるように、明子には感じられた。

「小杉主任。珍しいですね。こんな時間になるの」
「電車が遅れて。踏み切りの故障とかって」
「ああ。それでか。今日は遅刻の連絡が多いんだよね」

ちょうど電話を切ったところの松山が、川田の問いかけに答えた明子の言葉にそうなんだと納得顔で頷きながら「課長、井沢と吉岡は電車の遅延で三十分ほど遅刻するそうです」と、後ろを振り返りながら牧野にそう報告した。
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