リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「午後一で、少し、時間をくれ」

詳しい話を聞きたいと言いながら時計を見た君島が、ひとまず話しは終わりだというように、明子にそう告げた。

「午後ですね。判りました」

君島の言葉に、やはり午前中は会議ねと確信した明子は、大きく頷き、それから君島の部下たちがいるはずの席に、改めて目を向けた。

吉田の姿は、まだない。
けれど、吉田の場合は定刻になってもその姿がないことなど、珍しくもないことだった。
大塚はすでに席に着き、明子にちらりと目を向けてきたが、なにも言ってはこなかった。
君島と話しをしたのかどうかも、見た感じでは判らない。
沼田が「おはようございます」と言いながら、明子に小さくだが頭を下げた。
その頬には、わずかだけれども笑みがあった。
ほんの少し前までは、能面のような表情で、挨拶すらまともにしてくれなかったことを思えば、それだけでもすごい変化だわと、明子はその顔を見て思った。

久しぶりに姿がある島野に驚いて、なにかあったのかなと、明子は首を傾げながら席に戻った。


-全員、席に着け。


空気を一瞬にして凍りつかせる笹原の太いその声に、ざわめいていた室内はぴたりと静まった。


-やっぱり、抜き打ちか。
-助かった。


一呼吸、おいて。
誰かのそんな囁きが、ぼそぼそと漏れ聞こえたが、いつにない緊張感が室内に漂っていることは全員に伝わっていた。

「君島、牧野、岡本。報告を」

笹原のその声に、今現在、席にその姿がない者たちの所在等について、各課の課長から笹原に報告されていく。
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