リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「おかげで、私が傷だらけですよ。宅配弁当、食べてあげればいいのに、もう外で食べてきたからお腹一杯って断っておきながら、人のお弁当を盗み食いして」
「まだ、弁当食われてんのか、お前」
「そうなんです。もう。ひどいんです。それで……」
「小杉主任」

小林と、そのまま牧野の悪口で盛り上がりそうになっていると背後から名を呼ばれ、明子はその話しを中断して振り返った。
やっと会社に到着したらしい野木が、そこに立っていた。
おはようございます、お話中すいませんと、そう言葉を続けて、打ち合わせの件について礼を告げた。

「お世話になりました」

いえ、どういたしましてと、和やかに明子もそれに答えながら、がくりと肩を落としたい気分になった。


(あのさー。どうして、野木主任が挨拶に来るの?)
(吉田さんなり、大塚さんなりが、たとえ嫌々であってもね、言ってくるべきことじゃないの?)


いつの間にか出社していた吉田は、最大級の不機嫌顔で腕を組み、目の前のディスプレイを眺めていた。
だが、野木のその声に、ようやく明子に目を向けて、忌々しそうに言い放った。

「よその課の主任が、勝手にしゃしゃり出てやったことに、礼なんか言う必要ないぞ。どれだけ周りが迷惑したと思ってんだ?」

明子よりも先に、野木が口を開きかける。
逸れを制するように、明子は野木の腕に手を当てた。
忙しなく瞬きを繰り返す吉田の表情は、落ち着きがなく、明らかに様子がおかしい。
明子の出方を伺っている。
そんなふうにも見えた。
吉田と明子の間に入った形の島野は、眼鏡を拭いていたその手を一瞬止めて、吉田と明子を交互に見てから、また何事もなかったように、眼鏡を拭き始めた。
< 455 / 1,120 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop