リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
その大塚の言葉に、吉田は目を見開き、大塚にやや憎悪の混じった眼差しを向けた。


裏切るのか?


そんな声が聞こえてきそうな顔だった。

「課長から、朝のうちにそういう指示を受けましたので。報告は、一度聞けば、それで十分ですから」

訥々と大塚がそう告げたとたん、ややぎらついていた吉田の目は、また落ち着きをなくしておどおどと揺れ動きだした。
自分がいない間にどんな密約が交わされたのか、それが気になって仕方ない。
そんな雰囲気だった。
少なくとも、明子の目にはそんなふうに見えた。


-どうして、今日から……


吉田のそんな呟きが、明子の耳を掠めた。

ようやく、そういうことかと、吉田の挙動不審の理由の一部が明子にも見えた。
強気に出てきたと思ったら、急におどおどと周囲を窺う。
そんなことを繰り返しているのは、吉田にとっては不測の事態が続いているためなのだろう。
たから、なにをどう対応すれば、自分の有利に物事を進められるか。それを図りかねているのだと、ようやく、それが理解できた。
今の言葉から推測すれば、君島が今日から出ていることさえ、吉田は知らされていなかったのだろう。
もしかしたら、今週も引き続き休みを取ることになっているとでも、誰かから聞かされていたのかもしれない。


(そうやって、変に取り繕うとしないで、ここは素直に、ごめんなさいをすればいいのに)
(こんな騒ぎにして、そんな醜態を晒して、なにがしたいんだろ? この人)


明子は理解に苦しむ言動を繰り返す吉田に、げんなりとした顔でやれやれと息を吐いた。
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