リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
野木がそんな坂下たちを、やめないかと窘めたが、あまり効果はないようだった。
美咲を味方にしているという慢心が、彼らの顔にはありありと浮かんでいた。


(その頼りのお嬢様が、ここからいなくなったときのこととか、考えたことあるのかな、この子たち)
(味方も居場所も、なくなってもいいって?)


木村に覚えた頭痛より、さらにズキズキとこめかみにくる、吐き気すら覚えるような言いようのない痛みに、明子は呆れ交じりの吐息を零す。


(吉田さんが、これで)
(こっちの四人は、これで)
(ということは、野木くんと沼田くんと森口さん。実質、この三人で、この班は仕事してるってこと?)
(まあ、大塚さんのプログラミング能力は高いから、戦力にいれておいてあげようかな)


そんな下らない計算をしながら、坂下の相手などしても仕方ないと、明子はその言葉を無視した。
無視かよ、なんとか言えってんだと言い、明子に腹を立てたように鼻を鳴らす坂下を、野木がいい加減にしろと叱る。
そんな野木にも、坂下は鼻を鳴らして、面白くなさそうにそっぽを向いた。
野木がすいませんと頭を下げるのを見て、明子は野木に向けて語りかけた。

「私ね。戦う前から、勝敗が判りきっている勝ち戦は、しない主義なの」

脈絡もなくそんなことを言い出した明子を、野木は不思議そうに見ていた。

「自分より格下の弱い人を負かしたところで、ただのウサ晴らしでしょ? 後輩の平社員で、しかも仕事のスキルも、かなり低い。そんな子になにを言われたところで、これっぽっちも気にもならないわ。端から戦う相手じゃないんだもの」

野木を見ながら告げたその言葉に、坂下はその顔を強張らせていくのが明子にも判った。
< 463 / 1,120 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop