リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
野木は明子のそんな辛辣な言葉に、一瞬、目を丸くして、それから肩を竦めて笑った。


お手並み拝見。


その目は、そう言っているようだった。

明子の言葉に、坂下と同期の森口紀子(もりぐち のりこ)が、ふふと小さく笑い、小杉さんカッコイイなあと楽しそうに呟いた。

前はもう少し、できるやつだったと、小林は彼らのことをそう言っていた。
それは、裏を返せば、今はお世辞にもできるなどと言える状態ではないということだ。
そんな坂下を、誰よりもよく観察していたのは、身近にいる同期の紀子なのかもしれない。
紀子のその失笑に、坂下はますますその顔を強張らせて、唇を噛み締めていた。


(そんな半端な覚悟で、ケンカを売ってくるからよ)
(覚悟を決めて挑まなきゃならないケンカが、どんなもんか)
(そこで見てなさい)


もう引き下がるわけはいかないと、明子もここに至ってようやく鬼退治をする覚悟を決めた。


(今、ここで、私が退治しなければならない鬼は、どうやらこっちらしいしね)


少なくとも、大塚にその意志はないかとは明らかだった。
戦う相手が大塚にならなかったことで、明子の気持ちも少し楽になった。
明子はまた、その目を吉田に向けて対峙した。
明子のその眼差しに怯みながら、吉田は忌々しそうに鼻を鳴らした。

「女もその年まで一人でいると、口も性格も悪くなるな。恥も知らずに、若い男を夢中になって追い掛け回しているってウワサの色ボケ主任だけのことはあるな」

明子を笑い者にでもして、堕とせるとこまで堕としてやろうというような、いやな目つきで吉田は明子を見ていた。
その目を、明子は虫唾が走る思いをしながら、それでもまっすぐ見据えた。


(怯んだら、負け)
(怯まない)


そう自分に言い聞かせる。
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