リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「ウチの沼田を狙っているそうじゃないか。それで、この仕事にしゃしゃり出てきたんだろ。呆れた話だ」

またその話を持ち出すのかと、明子は乾いた呆れ笑いをこぼしながら、首を傾げる。
お嬢様たちも未知なる生き物だけれど、これもこれで未知すぎでコワい。
どうして、明子が勝手によその仕事に首を突っ込んだなどという話が、この場で通用すると思っているのか。
それが明子には不思議でならなかった。
明子が上からの指示で動いていることなど、みな知っていることなのに。
吉田がなにをどう取り繕うとしているのか、それがさっぱり明子には判らなかった。

吉田の言葉に、背後から冷やかし混じりのクスクスという耳障りな女の子たちの笑い声にあがる。
明子はその主たちを肩越しに眺めて、その中心にいる美咲を哀れむような目で見つめた。

二十歳をとっくに過ぎているのに、それでも大人になれない女の子。

明子の目には、美咲も美咲の取り巻きたちもそんなふうにしか映らなかった。


(だから、牧野さんに相手にされないのよ)
(見た目だけなら、十分、牧野さんのタイプなのに)
(牧野さんが好きなタイプの、ど真ん中にいるのに)
(でも、今のあなたは、決して牧野さんに振り向いてなんてもらえない)


小さくて、細くて、守ってあげたくなる。
それが、牧野にとっての『女性』の定義だ。
入社二年目を迎えたころ。
同期だけが集まっての飲み飲み会で、牧野がそう言った。
明子の前で、総務に配属された同期の女子社員たちに、タイプの女性はと尋ねられ、楽しそうにそう答えた。
多分、今でもそれはそう変わらないだろう。
自分は大きくその条件から外れている。
せめて、『細さ』だけでもその条件を満たそうと、必至になっていたときもあったけれど、今はそれすら論外だ。
それでも、牧野は抱きしめてくれた。
あの子ではなく、自分を抱きしめてくれた。
その胸の内にあった思いがなんなのか。
それは、判らないけれど。
抱きしめてくれたことは本当だ。
あの腕の力強さを思い出し、明子はその頬に笑みを浮かべる。

明子の視線に。
微笑みに。

明子を笑っていた美咲は、頬からその笑いを消して、明子から目を背けた。
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