リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
そもそも、ことの発端は大塚なのだ。
大塚がこんなバカなことを思いつかなければ、この事態は回避できたのに。
そう思うと、目頭がジンと疼いた。


(バカ)
(大塚さんの、バカ)


泣きそうな顔で怒っている明子の顔に、大塚は一度だけ瞬きをして、また視線をディスプレイに戻して、呟いた。

「褒められたんだな?」

大塚は、沼田がプレゼン用に作った報告書に目を通していた。
自分の問いかけに、はいと明子が頷くと、そうかと答えて、肩を小さく竦めて、一つ、くすりと笑った。
まるで、それを望んでいたかのような、そんな笑い方だった。
明子はそんな大塚に、眉を寄せて考え込んだ。
なにかが食い違っている。
そんな違和感を覚える。

「あ。資料、ありがとうございました」
「ん? ああ。アレか。たいして役には立たなかったろ」
「いえ。助かりました。足りないところ。いろいろと補えましたし」
「お前のプレゼン資料も見たよ。昔っから、ああいうもんを作らせたら、牧野より巧かったよな、お前。あれなら客も納得するな」

思ってもいなかった大塚からの褒め言葉に、明子は困惑しながらも「ありがとうございます」と、礼を告げた。

「なにが、プレゼンだっ それが、そもそも間違ってるんだっ」

大塚と明子のそんなやりとりになど、まったく興味を示さず、それどころか、なにを訳の判らないことを言っているのだと罵倒するように、吉田は喚き始めた。

「お前たちだけで、そんな勝手をしてきていいと思っているのかっ そういった提案をするときには、課長以上の役職にある者が同行しなきゃけいないことくらい、判っているだろっ 金曜は部長も社内にいたはずだっ お前たちだけでやってきたプレゼンなど、なんの意味もないんだっ 勝手なことをして」
「何度も言いますが。勝手をしてきたわけではあるません。部長から、やってもらえないかと言われた仕事を、引き受けてやってきたんです。それになんの問題があるんですか?」
「……部長から、だと?」

そんなバカなと、吉田はまた落ち着きなく目を泳がせる。
その目に、ますますいやな気分になっていく。
なんて疲れて気の滅入る鬼退治だと、心がどんよりと曇った。

「部長から、直接、そう言われたのか?」
「牧野課長を通してですが? それがなにか?」

明子の言葉に、それみたことかといわんばかりに吉田はにんまりと笑う。
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