リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「知っているヤツは、知っている話だぞ。沼田。お前もあそこは長いから、聞いたことくらいあるんだろう」
「はい」
「小杉も、聞いてんだろ?」
「そんなことを、ごにょごにょと」
本人には直接尋ねていないが、沢木の言葉は、そういう話があったことを暗黙のうちに匂わせていた。
今現在もまだ、牧野を狙っているような気配は感じられなかったが、残念がっていたのは事実だ。
あんがい、牧野の結婚と離婚には、計り知れない複雑なものがその背景にあったのねと、そんなことをぼんやりと、明子は頭の片隅で考えた。
「大塚も、知っている感じだな。誰から聞いた?」
小林の問いかけに、やや間を空けて、大塚は「本人から」と、答えた。
その言葉に、誰よりも吉田が驚きを顕にする。
明子も、内心では顎が外れそうな勢いで驚いたが、それは隠した。
「先週の木曜の夕方に。病室に来て。ぶん殴りついでに、そんなことを吐き捨てていきましたよ」
大塚のその言葉に、小林だけがゲラゲラと笑い転げた。
笑いながら「お前ら、まだそんなケンカができんだなあ」と、そう言った小林の声は楽しそうだった。
「大塚さん。あの大男に、また殴られたんですか? よく退院できましたね」
「またとか言うなっ」
驚きに目を見開きながら、しみじみとした口調でそう呟いた明子を、大塚は下から威嚇するようにねめつけた。
小林はまたげらげらと笑いながら「まったくだよなあ、あと何回、やるかねえ」と、笑い混じりの声でそう言葉を続けた。
「あご、大丈夫ですか、あご。歯は? ああ。顔は綺麗だから、今回はボディーですね。牧野さん、少しは大人になりましたねー」
「ばかやろっ 内臓悪くして入院してる病人の腹に、遠慮もなく、一発ドカンとくらわせていくようなヤツの、どこが大人だっ」
「ありゃー。それは、オニですね、アクマですね、ヒトデナシですね。ほんとに穴が開いたとか?」
「うるせっ もう、向こう行けっ」
大塚は顔を顰めながら、そう言って明子を追い払おうとした。
「お前と話してると、こっちの調子が狂っちまう。ったく」
「ひどいですー。しんぱいしてるのにー。ひどいですよー」
大塚とそんな言い合いをしながら、明子は席に戻ろうとした。
ぞんざいな口調だが、そのまま裏に、こんな奴の相手はしなくていいと言ってくれているような、そんな思いが感じられて、明子の頬が嬉しさに緩む。
しかし、そんなことは許さないとでも言うように、それまで呆然としていた吉田が「話は終わっていないぞっ」と、また喚きだした。
牧野を追い落とせると思っていた切り札が、まったくその機能を果たせなかったことに、吉田は地団駄を踏んで悔しがる子どものような形相をしていた。
「はい」
「小杉も、聞いてんだろ?」
「そんなことを、ごにょごにょと」
本人には直接尋ねていないが、沢木の言葉は、そういう話があったことを暗黙のうちに匂わせていた。
今現在もまだ、牧野を狙っているような気配は感じられなかったが、残念がっていたのは事実だ。
あんがい、牧野の結婚と離婚には、計り知れない複雑なものがその背景にあったのねと、そんなことをぼんやりと、明子は頭の片隅で考えた。
「大塚も、知っている感じだな。誰から聞いた?」
小林の問いかけに、やや間を空けて、大塚は「本人から」と、答えた。
その言葉に、誰よりも吉田が驚きを顕にする。
明子も、内心では顎が外れそうな勢いで驚いたが、それは隠した。
「先週の木曜の夕方に。病室に来て。ぶん殴りついでに、そんなことを吐き捨てていきましたよ」
大塚のその言葉に、小林だけがゲラゲラと笑い転げた。
笑いながら「お前ら、まだそんなケンカができんだなあ」と、そう言った小林の声は楽しそうだった。
「大塚さん。あの大男に、また殴られたんですか? よく退院できましたね」
「またとか言うなっ」
驚きに目を見開きながら、しみじみとした口調でそう呟いた明子を、大塚は下から威嚇するようにねめつけた。
小林はまたげらげらと笑いながら「まったくだよなあ、あと何回、やるかねえ」と、笑い混じりの声でそう言葉を続けた。
「あご、大丈夫ですか、あご。歯は? ああ。顔は綺麗だから、今回はボディーですね。牧野さん、少しは大人になりましたねー」
「ばかやろっ 内臓悪くして入院してる病人の腹に、遠慮もなく、一発ドカンとくらわせていくようなヤツの、どこが大人だっ」
「ありゃー。それは、オニですね、アクマですね、ヒトデナシですね。ほんとに穴が開いたとか?」
「うるせっ もう、向こう行けっ」
大塚は顔を顰めながら、そう言って明子を追い払おうとした。
「お前と話してると、こっちの調子が狂っちまう。ったく」
「ひどいですー。しんぱいしてるのにー。ひどいですよー」
大塚とそんな言い合いをしながら、明子は席に戻ろうとした。
ぞんざいな口調だが、そのまま裏に、こんな奴の相手はしなくていいと言ってくれているような、そんな思いが感じられて、明子の頬が嬉しさに緩む。
しかし、そんなことは許さないとでも言うように、それまで呆然としていた吉田が「話は終わっていないぞっ」と、また喚きだした。
牧野を追い落とせると思っていた切り札が、まったくその機能を果たせなかったことに、吉田は地団駄を踏んで悔しがる子どものような形相をしていた。