リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「私は、あの客先のことは、あまり」
「知らないからなんて、そんな情けないこと言わないでくださいよ。それを言ったら墓穴ですよ。知らないを言うなら、小杉主任のほうが上でしょう。それでも、彼女は行って来ましたよ? 木曜に、会議室で部長が言ってまたしたよ。今日まで待ったがダメかって。木曜でも間に合ったんですよ、きっと。自分が行きますと言えばね。小杉主任には申し訳ない結果になったかもしれないけど、吉田係長がそう言ってきたら、吉田係長に任せるつもりで、ギリギリまで待ってたんだと思いますよ」

その最後の情けですら、あなたは徒にして返しちゃったんですよ。
どうしようもない人だと、やや侮蔑の混じった目を吉田に向けて息を吐いた松山は、疲れたというように首を回した。
吉田の真っ赤な顔が、次第に青白くなっていった。
どんな思いが、その胸中を巡っているのかは判らない。
それでも、もうこれで十分かなと明子は考え、肩の荷を降ろすようにふぅっと息を吐き出して、席に戻ろうとした。

「小杉さん。昼休み、整体行こうか。僕、肩凝っちゃったよ」
「私も、すでに足がパンパンです」

意図的に、明るい声で松山とそんな言葉を交わす明子の背に、また吉田の声が飛んできた。

「それでも、最後は部長もお前を見切ったんだっ 後悔したんだろうさっ こんなやつに任せるんじゃなかったと。だから二人だけで客先に行かせたんだろうがっ」
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