リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「ご心配なく。その話なら、もう聞いてますから」

明子の言葉に、吉田はまさかという顔で明子を見る。

「牧野課長が、保留にしているわけではありません。私が、考える時間を頂きたいとお願いして、保留にして頂いているだけです」

明子のその言葉に、吉田はけらけらと冷やかすように笑い出した。

「へえ。そりゃすごいな。そんなふうに仕事の選り好みができる立場なんだ?」
「違います」
「何が違うんだ?」

正当な理由があるなら言ってみろと笑う吉田に、明子は決意の言葉を吐き出した。

「その会社に、以前、結婚を約束した人がいるからです」

吉田の顔から笑みが消える。
明子は、決して泣かないようにと、ただそれだけを考えて、静かな微笑を称えた顔で、言葉を続けた。

「どうしたんですか? 先ほどのように、笑ってくださってかまいませんよ。好きなだけ笑ってください。吉田係長の言われたとおりです。私は、以前、婚約を解消されたことがあります。まあ、結納の三日前ですから、まだ婚約していたとは言えないかも知れませんけど。理由はよく判りません。係長の仰るとおり、私に問題があったのかもしれません。終わりにしなきゃならない理由が、ちゃんと判れば楽になれたのに。今でも、理由が判りません」


あの日の後ろ姿を思い出す。
追うことも。
すがる事もできなかった。
あの背中を思い出す。
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