リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
あの日。
子どもができたと聞かされた。
責める言葉より先に、どうしてと尋ねた。
そんなふうに裏切られた理由を尋ねた。
やり直せないのは判ったから。
知りたかった。
何かいけなかったのかを。
でも、頭を下げるだけで何も語ってはくれなかった。
いっそ。
お前のせいだと言ってくれればまだ楽だったのに。
お前がいやになったとでも言ってくれれば楽だったのに。
でも。
君は悪くないと言い。
今でも愛していると言い。
ただ、背を向けられてしまったから。
気持ちがどこへも行けなくなってしまった。


‐小杉、止めろ。もういい。


大塚が明子を振り返り仰ぎ見て、そう明子を制した。
明子は、大塚に目を向けて、にっこりと笑い大丈夫ですと頷いた。

「その人が勤めている会社なんです。その大きな仕事は、その会社に乗り込んでいかなきゃならない仕事なんです」

明子の視線に耐えかねたかのように、吉田は目を晒した。

「お話を伺ったときには、断りました。でも、牧野さんはギリギリまで待つから、よく考えてみろと。確かに。大きな仕事です。他の会社だったなら、迷いもなくやりますと言いました。だから、牧野さんのお言葉に、甘えて考えさせてもらっています。やるならやるで、向こうの会社に乗り込んで行けそうかとか、先に確認しておかなきゃならないことも、いろいろとありますから。関連すると思われる部署に、私を知っている社員も、けっこう、いましてね」

目の奥に、熱いものが塊となって込み上げてきそうになるのを堪えて、明子は吉田をただまっすぐ見詰めて話し続けた。

「牧野さんは、そういった私の個人的な事情を、全て、知っています。だから、なにも言わずにいてくれるんです。もう一度、言います。返事を先延ばしにしているのは、私です。牧野さんではありません」
< 491 / 1,120 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop