リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
ふいに、明子は左手を取られた。

「もういいから。止めなさい。小杉くん」

島野が明子の左手を引くようにして、自分のほうに明子を振り向かせた。
いつものように眼鏡をかけて、笑っている島野の顔を、明子は不思議そうな顔で眺めていた。

「女の子がこんな拳を作って、戦わなくていいんだよ」

きつく握り締められた明子の左手に、島野は両手で包み込むように手を添えた。

「もういいから。それ以上。自分で自分の傷口を広げなくていいから。小杉くんがそれ以上傷ついたら、なんのために、牧野課長はキミを守って、泥を被り続けてくれたのか判らなくなってしまうだろ」

さ。手を開いて。
もう終わりにしていいんだよと言うように、島野はその手を開かせようとした。

「そこに立ったときから、ずっと、握ったままだったろう。ほら、力を抜いて。手を開いて。もう終わりにしなさい」

握ったまま固まってしまったかのように強張っている明子の手を、島野はゆっくりと温めるようにしながら解いていった。

「かわいそうに。こんなに爪の跡が残って。痛かっただろう。ああ。指先も冷たいな。怖かっただろ。一人で、こんな訳の判らない生き物と戦って」

怖かったな。
宥めるように、明子の冷たく冷え切った指先を島野は自分の手の温もり温め始めた。

「吉田さん。もう、仕舞いにしてください。自分が惨めになっていくだけですよ」

吉田のことなど一瞥もせず、明子の手を見つめて温め続けているながら、島野はひんやりとした冷たさが漂う声で吉田に言い諭した。
< 492 / 1,120 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop