リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「正直、なにがあったのか、さっぱり判らないんで、口は挟まないでいましたけどね。私は女の子を苛める男が大嫌いなんでね。それ以上、女の子を苛めるつもりなら、私が息の根を完全に止めますよ? こんなことまで言わせて。なにが楽しんですか?」

吉田はバツが悪そうな顔になり、周りに助けでも求めるように目を泳がせていた。

「小杉。悪かったな。打ち合わせ、助かった」

大塚のその声に、ようやく、明子の夢から覚めたように我に返った。
島野が握り締めている手に目を落とした明子の耳に、階段を駆け下りて走ってくる足音が届いた。

ゆるりと、視線を入り口に向けると、息を切らせて戻ってきた、牧野の姿をそこにあった。
息を切らせたまま、呼吸を整えようともせず、牧野は憤怒の炎を立ち上らせて吉田の傍らに立った。

「言ったはずだぞ。文句があるなら、俺に言ってこいってな。これがその答えなんだな?」

肉食獣の発する唸り声のような地の底を這う低いその声に、吉田の頬が痙攣したように引きつりだした。

「俺も、もう容赦しねえぞ。手加減してやる気もねえから、覚悟してけよ」
「これでもまだ、手加減していたのかよ」

大塚がぼそりとそう言うと、牧野は「うるせえっ」と、威嚇するように吐き出した。
その声に、さすがの大塚も顔を強張らせた。
良くも悪くも長い付き合いの中で、本気で怒ったときの、牧野の怖さは知っている。
この声はそのときの声だと言うことは、大塚でも判った。

すっと。
明子はその背に手を伸ばして、触れた。
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