リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「島野。てめえ、人のとこの、大事な大事な嫁入り前の娘に、手ぇ出すんじゃねえぞ」

牧野が怒鳴りだすより先に、小林がそう島野をけん制する。
そんな小林に、島野はなにをバカな言っているんですかと笑った。

「嫁に行った娘に、手を出すほうがまずいでしょ」

手を出すなら、嫁入り前の娘でないと。
平然とそんなことを言い放つ島野に、それはそうだと野木が笑いながら相槌を打った。


(お、思い出した)
(なくて七癖っていうけど、島野さんって、女癖が悪いんだったわ)
(というか、浮名が多い?)
(とにかく、社内一の遊び人だったわっ)


うひゃーと、明子は膝から崩れ落ちそうになった。
自分の手を握るこの人は、本人が悪びれることなく公言している遊び人だったことを、明子はようやく思い出した。

紫の開襟シャツを、嫌みなくビジネス仕様にして着こなせてしまうような、ちょいワル感を纏うインテリちっくな風貌で、後腐れ無くキレイに遊ぶという評判がある、牧野とはまた一味違う人気がある人だった。


(そんな人に手、握られてるよ、私)
(どうしましょう)


内心、ものすごいどぎまぎしながら、なんとか自分の手を島野から奪還しようと試みるが、無駄な足掻きというように、眼鏡の奥の島野の目が笑っていた。

「これからね。どれだけ、この頭を下げて回ればいいのかも判らない事態でね。もう少し、握らせててくれないかな。もう、朝からため息しか出てこなくてね。女の子の手くらい握ってないと、へこたれそうなんだ」

俺の始末書くらいで、どうにかなるかなあ。
まだ、昼前だというのに、夕暮れ時並に黄昏ている島野に、明子は首を傾げながら、傍らの牧野を見た。
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