リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「小杉」

腕を組んで、今までのやり取りを聞いていた笹原が、明子に呼びかけてきた。

「総務のほうも、なにか問題が出ていると言っていたな?」
「はい。詳細は聞いてませんが、福利厚生費の按分がどうのこうのって、聞いたことがあります」
「そうか、悪いが、全部、聞き取って報告書を挙げてくれないか? 大問題になってからでは遅いからな。まあ、すでに一年近くたってるしな。今更かもしれんが」
「運用は、QA表を何度か出しているはずです。改修目的と運用ルールの変更点、明文化して提示してほしいって」
「どこかで止まっているのか、握りつぶされたのか。部課長レベルには、なにも届いていないな」

困ったもんだとぼやく笹原の声を聞きながら、島野が暢気なことを言い出した。

「いいなあ。この子。ウチにこないかなあ」

また明子の頭を撫で始めた島野は「ウチに移ってきなさい」と、明子を口説き始める。
明子は、またそのままフリーズして固まった。
眼鏡の奥で笑っている目の絶妙な妖しさに、明子な思考回路が止められた。

「この辺りの席、いくらでも空けるから」

牧野がそんな島野に「うるせえっ」と怒鳴り、その手を払い落とす。
小林も島野に向き直り、詰め寄るように威嚇する。

「島野っ てめえ。何度も言わせんなっ ウチの嫁入り前の大事な娘にだな」
「だから、嫁に行った娘に手を出したらもっと問題ですから。第一、父親ですか、あなたは?」

小林さんみたいな口うるさい過保護な父親がゴロゴロいるから、この子、嫁に行けなんですよ。
牧野に払われたその手を、島野は凝りもせず、明子の頭に伸ばし撫で始める。
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