リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「小林さん。ひどいですっ 金太郎って。私、女の子ですよっ これでも」

明子は思い出したように、小林の『金太郎』発言を非難した。

「仕方ねえだろ。金太郎に見えたんだから。課長さんからは、桃太郎が湧いてくるかもしれないけど、鬼退治はさせるなって言われたけどよ、よもや、金太郎の張りぼて被った桃太郎とは思わなかったよ」
「ひどい。ひどい、ひどいです。私、クマになんて跨ってませんよ」
「小杉くん。こんな係長と課長の下にいても、この先ロクなことはないから、すぐにウチに移ってきなさい」
「広島、遠いですぅ」
「おいしいもの、沢山あるよ。ごちそうしてあげるから、おいで」
「おいでと言われても」
「島野、いい加減にしろよ。その手を離せっ やらんぞ、ウチの娘は、絶対に渡さんぞ」
「そうだよ。だいたい、小林係長が手離すって言うなら、こっちのチームに貰うよ。島野係長になんか、渡さないからね」

島野を追い払おうべく、松山まで参戦して小杉主任は渡さないよと、島野をけん制する。

「小杉さんのおかげで、ウチはこの春から、よその課とのトラブルがほとんどないんだから。営業にも、支援にも、ちゃんと根回しをしておいてくれるから、大助かりだよ。一課になんて、絶対に渡さないよ」
「ひどいなあ。みんなして。私たちを引き裂こうなんて」
「ウチの大事な娘を、お前の毒牙にかけてたまるか」
「だから、あなたは父親ですか。娘、娘と」
「いいんだよ。なあ。小杉。親父さんと名前が一緒なんだもんなあ」
「あはは。そうでしたね。パパー。娘はまだ手を握られてますぅ。お仕事ができませーん」

入社したばかりのころ、小林の名刺を見た明子が、父と名前が一緒だと言ったことを、今でも小林は覚えていて、ときどき、こうやってネタにする。
それが楽しくて、つい明子も調子に乗って、小林をパパと馴れ馴れしく呼び、あらぬ誤解を招いたこともあった。
< 512 / 1,120 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop