リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「小杉くん。沼田もいい物件だけどね、私も、なかなか、お買い得ないい物件だよ。ちょっと遊ぶのにいいよ」
「自分で言うな。もう、広島に帰れよ、お前は」

遊び前提の島野の言葉に、小林は呆れ混じりの苦笑いを浮かべながら島野にそう言うが、島野は「今日は、こっちにいますよ」と、あっさりとそれを拒否した。

「もしかして。私メ、今、人生最大のモテキ?」

目の前の光景を、肩を揺らして笑いながら見ている川田に救いを求めるように、明子はそんなことを尋ねてみた。

「あー。モテキなのか、天中殺か。なんでしょ? まあ、楽しそうには見えますが」
「いやん。天中殺なんて、ひどい。もう、人生で一度、どん底まで行ったんだから、勘弁してー」

明子のその言葉に、川田が真顔に戻ってしまったのを見て、明子は失敗したわと鼻を撫でた。
木村や渡辺たちですら、微妙な顔つきになっていた。

「小杉。どうすんだ。あの仕事?」

空気を返るように、小林がさらりと世間話のようなノリでそう尋ね、明子は「どうしましょう」と、困った顔で小林を見た。

「よりにもよって、面倒な話がきちまったなあ」
「ホントですよ。神様、意地悪すぎですよ」
「ウチの課長、良くも悪くも引きがいいからなあ」
「やっぱり、あの課長ですよね。ぜったい、そうですよね」
「だべ。それしかないべ」
「土建やさんといい。あの会社といい。逸話てんこ盛りの話ばっかり引いてきて」
「振り回されるこっちは、クタクタだよなあ」
「やっぱり、来月は討ち入り掛けて、天誅ですかね」
「やっちまうか、ばっさりと。吉良牧野に」

一瞬、微妙になった空気が、二人の軽いノリのやり取りで払拭される。
小林のこういう気配りが、いつもの明子を救ってくれた。
皆の前で自分から話したことで、自分の中でも何かが吹っ切れた。
少なくとも、もう、昔話にしてしまおうと思えるくらいには、吹っ切れた。
未練がないとは言わない。
後悔がないとも言わない。
でも、ようやく、立ち上がって、顔を上げられたような気持ちになれた。
どこにも進めずにいる気持ちもまだ残っているけれど、前を向いて進んでいける気持ちも生まれた。
けれど、仕事を受けるかどうかは、まだ決められなかった。
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