リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「土曜日。それはそれは豪華なお重弁当をいらないって速攻で断ったくせに、私のお弁当、強奪して食べたんですよ、その課長。その挙句、犬のご飯より貧相なお弁当って、怒っている井上さんにこっちは八つ当たりされて。踏んだり蹴ったりですよー」

思い出しただけでも、泣けてきますーと訴える明子に、小林は「ああ、そうかよ」と言いながら「そんな話は、期待してねえ」と、机に突っ伏した。

「どんだけ、いいもの食ってる犬だよ」

贅沢させんじゃねえやという牧野の独り言に、小林は背後を振り返り牧野を一瞥すると、島野と意味ありげに目を合わせ笑う。
そんな二人を、牧野は「なんですかっ」と、面倒くさそうに睨みつけた。

「いいもん、な」
「いいもん、か」

へえと、薄ら笑いでそう言う二人に、牧野は「うるせえなあ。いちいち、面倒くせーよ」と不貞腐れた。

「小杉」

むすっとした顔のまま、牧野は明子の名を呼び「こっちにこい」と、明子を手招きした。
お弁当を返してもらえると思ったらしい明子が、いそいそと机の前に立って手を差し出すと、牧野はにいーっと口角をあげて笑い、自分の『弁当』の一部を明子の手の平に置いた。

「お前の昼飯は、それだ」
「ひどいっ なんで、おにぎりとサバ缶ですかっ」
「はずれ。今日はいわしだ」
「どっちでもいいですっ そんなの。ひどい。こんなぶつぶつ交換、あんまりですっ」

憤る明子など意に介する様子もなく、牧野は嬉々とした顔で、明子の弁当を自分の机の引き出しにしまいこんでしまう。
ひどいー、むごいーと言いながら、明子は強制的なぶつぶつ交換により手渡された大きなおにぎり一個と缶詰を手に、ふてくされた顔で席に戻った。
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