リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「木村くん。マグロの竜田揚げと、玉子焼きとひじきの煮物が、いわしの缶詰ってひどいわよね?」
「等価交換には思えませんね」
「お願い。あのモンスター、倒してきて」
「それは、むりです」

ムリムリと手を振って明子の懇願を拒否する木村に、やっぱり私は孤独な桃太郎なのねと、明子は項垂れた。

「奪い返してくればいいじゃないですか」

小杉主任ならできますって。
あははと笑いながらそう言う木村に、明子は「だって」と拗ねる。

「あの課長さん。人のお弁当を強奪したくせに、それを奪還すると怒るんですもの」

ぷんと、怒る勢いで、明子はキーボードを叩いていく。
総務課長に宛てたメールが、さっそく返信されてきた。
それに目を通しながら、明子は怒り任せの勢いでキーボードを叩き、報告書を仕上げていく。
そうしながら、木村相手に喋り続けた。

「俺の弁当返せって。俺のじゃないのに。私のなのにっ 俺の弁当返せって、あの大きな体で、お弁当渡してやるまで、駄々捏ねる子どもみたいに、喚いて暴れて騒ぐんだもの。そのたびに、君島さんとか小林さんが、煩くてしょうがないから弁当くれてやれって言って。けっきょく、お弁当を剥奪されちゃうの。おかしいわよね? 私に譲れと言うよりも、あの食いしん坊に諦めさせるべきでしょう。なのに、私がお弁当を諦めなきゃならないのよ。
で、目の前で食べちゃうの。まだ仕事中なのに。食べられちょうの。ずっと、そんな目にあってきたのよ、私。奪い返したくても、奪い返せないじゃない」

それとも、暴れる課長さん、止めてくれる? 課長の暴挙を援護する係長、叱ってくれる?
むぅっと剥れる明子に、木村は「ムリでーす」と、明るくきっぱり即答する。
小林は、明子から非難を受けている当事者という自覚もないように腹を抱えて笑い続け、川田や渡辺たちも必至に笑いを堪えようとして失敗している様相だった。
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