リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「お弁当、隠しておけばよかったじゃないですか?」

木村がもっともらしいことを、明子に言う。
しかし、明子は「隠したのよ」と、言われるまでもないと言いたげな顔で答え、さらに頬を膨らませてむくれた。

「ロッカールームって、勤務時間中は空調を切っているじゃない。だから、入れておけないでしょ。かといって、冷蔵庫の中に入れておいても、犬みたいな嗅覚で、間違いなく、私のお弁当を見つけちゃうし。だからね、鍵が掛かるこの一番上の引き出しに入れて、ちゃんと、鍵を掛けて仕舞っていたのよ。でもね」
「はい?」

コーヒーを飲みながら、木村は、でも、なんだろうと、不思議そうに明子を見た。

「ある日。さあ、お昼だと思ってお弁当を出して、広げたら」
「ら?」
「空っぽだったの」

ゴホゴホゴホと、木村がコーヒーを詰まらせたのか、むせ返るように咳き込んだ。
ああ、ほら、大丈夫と言いながら、明子はその背を摩った。

「空っぽって……。詰め忘れてきた、とか?」

一応、念のための確認ですと言いながら、そう尋ねる渡辺に「違うわよ」と、明子はまた剥れた。

「『ごち』ってメモが一枚、ちゃっかり中に入っていたもの。判る? そのときの衝撃。犯人は判っているのに、解けない完全密室犯罪の謎を突きつけられたみたいな。『消えたお弁当の謎』なんてサブタイトル付きの、チープの昼ドラのヒロインになったみたいよ。って、川田主任。笑いすぎですっ」
「いや、だって……わはははははっ」

課長の執念、半端ねえっ
涙を流しそうな勢いで笑い転げているのは川田だけではなく、岡島や松山たちも、天を仰ぐようにして笑い転げていた。
< 518 / 1,120 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop