リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「あのね。本来、システム部の社員に制服の着用を要求するなんて、本末転倒なのよ。システム部が制服ではなくて私服を着用しているのは、なんのため? おしゃれをするためじゃないでしょう」
「え?」

明子からのその問いかけに我に返った美咲は、驚いたように目を見開き明子を見た。
お洋服を着る理由がおしゃれのためじゃないなら、いったい、なんなのというように、美咲は本気で明子の言葉を不思議がっている顔つきだった。
そこから教えなきゃいけないのねと、明子は頭を抱えたくなるのを堪えて、静かに美咲に言い聞かせた。

「私服の着用を許されているのは、着替えるための時間をなくして、勤務時間になったら仕事に専念させるための処置よ。まあ、経費削減とかね、理由は他にもあるけど」

明子の言葉に、美咲は難しい問題を突きつけられたような顔になっていった。

「まさかと思うけど、きらきらに着飾って、場違いなファッションショーを、毎日、ここで開催するための私服だとでも思っていたの?」

離れた場所からの紀子の吹き出し笑いが、明子の耳に届いた。

「そんなのウソと思うなら、お父様にお聞きしなさい。システム部の人が私服なのは、おしゃれに時間をかけるためよねって。なんなら、今ここで、電話でお尋ねしてみましょうか? なんて答えてくださるか、私も聞いてみたいから」

固定電話に伸びていく明子の手を見て、美咲は慌てたように「やめて」と、明子を止めた。
明子の言い分に納得したわけではないが、さすがに、自分の行いを正当化して父親に訴えることはできないというくらいの判断はできるらしい。
そのことに、僅かばかりの安堵を明子は得た。
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