リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
明子を見上げているその顔は、心底、驚いている顔だった。
その牧野の額を、君島が窘めるように小突いた。


-じいさんって、お前な


小声でぼそりと吐き出されたその言葉に、明子も同意の苦笑いを浮かべる。

「まあ、けっこう、ご年配の方でしたけど」
「色付きの眼鏡、かけていなかったか?」
「かけてました。はい」
「こう、昔の任侠映画とかに出てきそうな、三つボタンでピカピカのスーツを着たじいさんだったろ」
「まあ、そんな感じというか、なんというか」

君島と牧野に問いかけられるたび、明子が大きく頷いた。
明子からの回答に確信を得た君島と牧野は、また目を見合わせて、微妙な雰囲気の滲む表情で、ややなにかを危ぶんでいるような気配が漂う会話を、無言で交わす。
その濃い密度に、明子は再び小林に助けを求める。

「係長。また、ツーさまとカーさまが、目から光線をピピピピってしてます~」
「目、瞑っとけ。石にされちまわねえように」
「うるせえな。つうだのかあだの。羨ましいなら、羨ましいと言いやがれ。俺様みたいに光線ピピピと出してみろってんだ」

自慢げに吼える牧野に、明子はなにを言ってんだかと呆れ笑い、君島は牧野の額をピシャリと叩いて苦笑した。
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