リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「じゃあ、今日は午前で、あがらせてもらいます」
「ああ」

判ったと頷く君島に続き、島野が大塚に声をかけた。

「新幹線の切符。貰っていくから。明日、改札前でいいだろ?」
「はい」

淡々と続けられるそんなやりとりに、次第に腹を立てていることが馬鹿らしくなり、諦めたように息を吐いた明子は、また牧野の肩を突っついた。

「ん?」

顔を向ける牧野に「それ、どうしたんですか」と、やっと、気になっていたことを尋ねた。

「それ?」
「ポインセチア」
「持ってきた」
「持ってきた?」

不思議そうな顔をしている明子に、牧野は窓辺の鉢植えを顎で指した。

「そろそろ、それは持ち帰って、こいつを置こうかなって」

窓辺の白い鉢には、鮮やかな黄緑色の観葉植物が植えられていた。
少し太い蔓の先端に楕円形の葉が付いているそれは、夏のころから窓辺に置かれ、涼しげな印象を醸し出していた。
その前に置かれていたのは、母の日によく見る淡いピンク色の小さなカーネーションで、明子が移動してきたころは、茎の先に六枚の葉を持ち、根本の幹は太く、先に行くほど細くなっている木が置いてあった。

いったい、誰が置いているのだろうとそう疑問には思ってはいたが、まさか牧野が持ってきて置いていたとは思わなかっただけに、明子は驚いた。
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