リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「ああ。それで、ご相談なのね」

会議室で交わされた、さきほどの会話を思い出した明子は、納得納得というように、こくんこくんと頷いた。

「なんです、相談って?」
「判らないんだけどね。なにかプライベートのことを、君島課長にご相談したいとかなんとかね」
「小杉主任。それはオフレコです。あそこだけの話にしてください。そいつにはそれ以上、吹き込まないでください。俺のタバコをこれ以上減らされたら困ります」
「あはは。なによ、もう尻に敷かれているじゃない」

最初が肝心って言われてきたのに。
唇について人差し指を当て、内緒をアピールする野木に、明子は楽しそうに笑いながら、隣の紀子を見た。


(いいなあ。幸せそうな人の顔って)


結婚しますと言った木村の顔も、微笑んでいる紀子の顔も、そして、照れくさそうな野木の顔も、見ているだけで幸せな気分にさせてくれる。

「なんか、来年はウチ、結婚ラッシュ?」
「かもですねえ。小杉さんだって、来年あたり決めそうじゃないですか」
「えー。それはどうかなあ」

そんな話は微塵もないからっと、内心ではそんな焦りを見せつつ、あたふたしている醜態を晒すと、そこに食いついてきそうな女子たちを見て、表面だけでも余裕ありげに取り繕って、その場を後にした。

「いい加減、仕事に戻れっ」

背後から聞こえてきた野木の声に、不平と不満を並べつつも、一人二人と休憩所を去っていく気配があった。
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