リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「あー。びっくりした。野木さんのバカ」
いきなり、あんなこと言い出して。
紀子は頬を膨らませてそんなことを言いながら、自分のマグカップと紙コップにコーヒーを注ぐ。
それが誰のものか。
そんなことを聞くのは野暮というものだわと、明子もそれについては触れなかった。
「まあ。坂下がしつこくて困ってたから、よかったかな」
言ってしまったものは仕方がないと割り切ったのか、はざはざとした口調でそう言うが、その内容に明子は眉をひそめた。
「なんか、さっきもイヤな感じだったけど、なにかされたりしてない?」
大丈夫?
紀子に向けられていた、坂下のねっとりとした視線を思い出した明子は、心配げに紀子を見た。
「大丈夫です。野木さんとか課長とか、あんがい、大塚さんなんかも、あいつに睨み効かせてくれているんで。妙なことしないようにって」
まあ。電話だ、メールだ、うざかったですけど。
肩をすくめてそう言いながら、はあっと盛大に息を吐く紀子を見て、それは口で言うほど軽いダメージではなかったことが明子にも判った。
「いつでも、相談乗るからね。一人で抱えちゃダメよ。ぜったい」
静かに伝えた言葉に、紀子は真顔になって「ありがとうございます」と、明子に軽く頭を下げた。
「正直言うは、やっぱり、いくら上司でも男性には相談しにくいこともあって。これからは遠慮しないで相談させてもらいます」
「ごめんね。早く気づいてあげられなくて」
「あー。それは……、たぶん、私のせいなんで、気にしないでください。ホント、申し訳なかったんですけど、私、最初のころは小杉さんにバリア張っちゃっていたんで。必要以上に接触しないようにしてたんです」
ややばつの悪そうな顔で「すいません」と言う紀子に、明子はどういうことだろうと首をかしげた。
「小杉さんの異動が決まったころ、いろいろとウワサが流れて」
「あー。お荷物のお局様を、会社が牧野さんに押し付けたって?」
「そういうのもありましたし、小杉さんが無理を言って移ってきたとか、最初はウチに来るはずだったのに、君島課長を嫌がって牧野課長のほうに行ったとか、小林係長となんかアヤシイとか。いろいろ。どれがホントは判らないけど、なんだか面倒そうな人だなあって思っちゃって。距離とっちゃったんです」
「そっか。そんなに、いろいろ言われていたのね。なんだだろう」
陰でそんなことを囁かれていたという、初めて知ったその事実に明子はがくりと項垂れた。
そんな明子を見ながら、紀子は言葉を続けた。
いきなり、あんなこと言い出して。
紀子は頬を膨らませてそんなことを言いながら、自分のマグカップと紙コップにコーヒーを注ぐ。
それが誰のものか。
そんなことを聞くのは野暮というものだわと、明子もそれについては触れなかった。
「まあ。坂下がしつこくて困ってたから、よかったかな」
言ってしまったものは仕方がないと割り切ったのか、はざはざとした口調でそう言うが、その内容に明子は眉をひそめた。
「なんか、さっきもイヤな感じだったけど、なにかされたりしてない?」
大丈夫?
紀子に向けられていた、坂下のねっとりとした視線を思い出した明子は、心配げに紀子を見た。
「大丈夫です。野木さんとか課長とか、あんがい、大塚さんなんかも、あいつに睨み効かせてくれているんで。妙なことしないようにって」
まあ。電話だ、メールだ、うざかったですけど。
肩をすくめてそう言いながら、はあっと盛大に息を吐く紀子を見て、それは口で言うほど軽いダメージではなかったことが明子にも判った。
「いつでも、相談乗るからね。一人で抱えちゃダメよ。ぜったい」
静かに伝えた言葉に、紀子は真顔になって「ありがとうございます」と、明子に軽く頭を下げた。
「正直言うは、やっぱり、いくら上司でも男性には相談しにくいこともあって。これからは遠慮しないで相談させてもらいます」
「ごめんね。早く気づいてあげられなくて」
「あー。それは……、たぶん、私のせいなんで、気にしないでください。ホント、申し訳なかったんですけど、私、最初のころは小杉さんにバリア張っちゃっていたんで。必要以上に接触しないようにしてたんです」
ややばつの悪そうな顔で「すいません」と言う紀子に、明子はどういうことだろうと首をかしげた。
「小杉さんの異動が決まったころ、いろいろとウワサが流れて」
「あー。お荷物のお局様を、会社が牧野さんに押し付けたって?」
「そういうのもありましたし、小杉さんが無理を言って移ってきたとか、最初はウチに来るはずだったのに、君島課長を嫌がって牧野課長のほうに行ったとか、小林係長となんかアヤシイとか。いろいろ。どれがホントは判らないけど、なんだか面倒そうな人だなあって思っちゃって。距離とっちゃったんです」
「そっか。そんなに、いろいろ言われていたのね。なんだだろう」
陰でそんなことを囁かれていたという、初めて知ったその事実に明子はがくりと項垂れた。
そんな明子を見ながら、紀子は言葉を続けた。