リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「話してみれば気さくな人だし、筋はちゃんと通すし、君島課長とだって親しげだし、小林係長となにかありそうな雰囲気なんてないし。なんか、聞いているウワサと違うかもって思って、思い切って課長に聞いてみたら、そんなウワサはみんなガセだって、笑い飛ばすし。そんなことなら、仲良くしてもらえばよかったなあって、後悔してたんですよね」
「それもこれも、すべて私の不徳の致すことろ。と、言いたいところだけど、この件に関しては少なくとも牧野課長に原因のむ一因はありそうなので、あとで首を絞めようかと。ぎゅぎゅっと。まったくもう、いつくになっても困った人なんだから」
蓋を開けて真相を覗いてみれば、じつは牧野の暴走だったと言う事実に、この春からの暴飲暴食はいったいなんだったんだと、牧野に拳骨の一つでも振り下ろしたい気分だった。
明子のそんなぼやきに、紀子もまったくだすよねえと笑う。
「なんか、今朝の話だと、どうも牧野課長が強奪したっぽいですよね。よもや、そんなオチだったなんて」
「もう、バカとしか言いようがないわ」
「まあ、いくつになっても、男はおバカでお子さまでってとこですね」
「ねえ。早く賢い大人になってくれないものかしら」
「ふふ。牧野課長のことをそんなふうに言える人、初めて見ましたよ、私。すごいなあ。とりあえず、これからはよろしくお願いします」
「こちらこそ。よろしくお願いしますです」
お互いに芝居じみた会釈をしあいながら、どちらともなく肩をすくめて笑いあった。
「お式、いつごろなの?」
話題を変えようと、明るい声でそう尋ねると、紀子は手を振った。
「まだまだ、全然。そんな具体的なこと、一つも決まってませんよ。先週、うちに遊びに来て、親と顔を合わせたところだし」
「そうなんだ。いいなあ。幸せそう」
私にも幸せ分けてーと訴える明子に「なに言ってるんですか」と、紀子は笑う。
「あー。でも、なんか、あっちこっち広められてそう。やだなあ」
「あー。あの子たちねえ」
「まあ。おかげで、腹をくくることはできましたけどね」
「腹をくくる?」
「結婚って、自分とは違う人と、一生関わって生きていくことを選ぶわけでしょう。どうやったって、自分とは違う人の気持ちとか考えとかに、振り回されたり、傷ついたりするじゃないですか、お互いに」
「まあね」
「そりゃ、付き合っているときも、そういうことはあるけど、逃げることもできるじゃないですか。でも、結婚したら、簡単には逃げ出せないし」
「うん」
「私、けっこう、一人でいることの楽さに慣れちゃっているから、そういうことも覚悟を決めないと」
ふふふ。
目を細めて笑う紀子に、明子は思わず目を見張り、それから「そうね」と頷いた。
「小杉さんは、どうなんです?」
牧野課長と。
興味津々という顔で明子を見る紀子に「ええっ」と、明子は仰け反った。
「いや、特に。なにも」
「またまた。まあ、いいです。それは女子会のときにでも。うふふ」
目を三角にして笑っている紀子に、気持ち頬を引きつらせて、明子も作り笑いを浮かべる。
(なんか、気が重くなってきたわ)
(なにもないのに)
(森口さんですら誤解してるってことは、いろんな人が誤解してるかもってことよね)
そんなことを思いながら、給湯室を出ようとすると、そこに困ったような顔をした牧野が突っ立っていた。
同じタイミングでその姿に気づいた紀子も、しまったという顔でぺろりと舌を出し、そそくさと退散するように給湯室を出て行ってしまう。
取り残された明子は、どうしたものかとこめかみを押さえた。
「それもこれも、すべて私の不徳の致すことろ。と、言いたいところだけど、この件に関しては少なくとも牧野課長に原因のむ一因はありそうなので、あとで首を絞めようかと。ぎゅぎゅっと。まったくもう、いつくになっても困った人なんだから」
蓋を開けて真相を覗いてみれば、じつは牧野の暴走だったと言う事実に、この春からの暴飲暴食はいったいなんだったんだと、牧野に拳骨の一つでも振り下ろしたい気分だった。
明子のそんなぼやきに、紀子もまったくだすよねえと笑う。
「なんか、今朝の話だと、どうも牧野課長が強奪したっぽいですよね。よもや、そんなオチだったなんて」
「もう、バカとしか言いようがないわ」
「まあ、いくつになっても、男はおバカでお子さまでってとこですね」
「ねえ。早く賢い大人になってくれないものかしら」
「ふふ。牧野課長のことをそんなふうに言える人、初めて見ましたよ、私。すごいなあ。とりあえず、これからはよろしくお願いします」
「こちらこそ。よろしくお願いしますです」
お互いに芝居じみた会釈をしあいながら、どちらともなく肩をすくめて笑いあった。
「お式、いつごろなの?」
話題を変えようと、明るい声でそう尋ねると、紀子は手を振った。
「まだまだ、全然。そんな具体的なこと、一つも決まってませんよ。先週、うちに遊びに来て、親と顔を合わせたところだし」
「そうなんだ。いいなあ。幸せそう」
私にも幸せ分けてーと訴える明子に「なに言ってるんですか」と、紀子は笑う。
「あー。でも、なんか、あっちこっち広められてそう。やだなあ」
「あー。あの子たちねえ」
「まあ。おかげで、腹をくくることはできましたけどね」
「腹をくくる?」
「結婚って、自分とは違う人と、一生関わって生きていくことを選ぶわけでしょう。どうやったって、自分とは違う人の気持ちとか考えとかに、振り回されたり、傷ついたりするじゃないですか、お互いに」
「まあね」
「そりゃ、付き合っているときも、そういうことはあるけど、逃げることもできるじゃないですか。でも、結婚したら、簡単には逃げ出せないし」
「うん」
「私、けっこう、一人でいることの楽さに慣れちゃっているから、そういうことも覚悟を決めないと」
ふふふ。
目を細めて笑う紀子に、明子は思わず目を見張り、それから「そうね」と頷いた。
「小杉さんは、どうなんです?」
牧野課長と。
興味津々という顔で明子を見る紀子に「ええっ」と、明子は仰け反った。
「いや、特に。なにも」
「またまた。まあ、いいです。それは女子会のときにでも。うふふ」
目を三角にして笑っている紀子に、気持ち頬を引きつらせて、明子も作り笑いを浮かべる。
(なんか、気が重くなってきたわ)
(なにもないのに)
(森口さんですら誤解してるってことは、いろんな人が誤解してるかもってことよね)
そんなことを思いながら、給湯室を出ようとすると、そこに困ったような顔をした牧野が突っ立っていた。
同じタイミングでその姿に気づいた紀子も、しまったという顔でぺろりと舌を出し、そそくさと退散するように給湯室を出て行ってしまう。
取り残された明子は、どうしたものかとこめかみを押さえた。