リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「ずいぶん、早かったですね。話し合い。もう終わったんですか」

とりあえず、無難な話をしておこうという予防線を無意識のうちに張った明子は、そんなことを尋ねながら、牧野の手にあるマグカップを受け取った。


(ブラックでいいわね)
(この顔は)


その顔を見る限りでは、疲れているという様子はなかった。むしろ、元気百倍くらいの印象だった。
明子の問いかけに、牧野は憮然とした声を上げた。

「ドタキャンされた」
「ドタキャン?」
「都合が悪くて、行けなくなりましただとよ。だったら、朝のうちに言いやがれってんだよ」
「向こうついてから、連絡がきたんですか?」
「約束の時間になっても来ないから、なんだと思っていたら、そう連絡が来たらしい」
「ひ、ひどい。お客様」
「カンカンだよ。どうする気だか」

結局、また明日、行かなきゃならねえ。
うんざりとしたその顔に「おやつのチョコを、今日は特別に分けてあげます」と、明子は宥めるように牧野に告げた。

「おう。いっぱいくれ。……、なあ、なんの話してたんだ?」
「え?」
「ここで。俺の名前が聞こえた気がしたぞ」

明子からマグカップを受け取りながら「教えろよ」と、牧野は詰め寄った。


(ええーっ)
(なんて言えばいいのよっ)
(もうっ)
(森口さーん)
(というか、なんでこのタイミングで登場ですかっ)
(牧野さんっ)


明子は困った顔で「別に、たいした話じゃありませんよ」と、誤魔化した。
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