リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「弟さんがいるんですか? じゃあ、お花屋さんは、弟さんが継がれたんですか?」
「ん。本人も、昔からそのつもりでいたしな。専門学校でフラワーアレンジメントとかの勉強して、なんか、手広くあれこれと始めてるよ」
「顔が取り柄のお兄さんを、客寄せパンダにしながら?」
「んだ。まあ、俺も花とか弄っているの、嫌いじゃないしな。小さい庭だけど、いろいろ植えてあるぞ」
「家のほうにも、観葉植物とか多そうですね。春のころ、窓のとこに置いてあったのはなんですか? 葉っぱが六枚の木」
「パキラだよ。あれも育てやすいから、今度、家に行くとき持っててやるよ」
「え? いや。枯らしちゃいそうだし。私」

さらりと、なんでもないことのように告げられた再訪の言葉に、明子の胸がざわめく。
また、牧野さんが来る。
そう思うだけで、一気に明子の胸は早鳴った。

「大丈夫だって。そんなに手間がかかるヤツじゃないから」
「お花屋さんの大丈夫は、一般レベルと違いますって。でも、牧野さんに、ああいう趣味があるの、意外でしたよ」
「家のこととか、話したことなかったか?」
「多分。あんまり、そういう話、しないじゃないですか」
「そう、だな。俺も、お前の家族の話、あんまり聞いた記憶ないしな」
「お互い、まだまだ、謎が沢山ありますねえ」

うふふと笑う明子に、そうだなと牧野も肩を竦める。

「踏み込むのも、踏み込ませるのも、覚悟がいるしな」

ぼそりと呟かれたその言葉に、明子の頬から笑みが引く。


(覚悟、か)


今日は、よくよく聞く言葉だわと、そんなことを思いながら、明子はその二文字を胸に刻み込んだ。
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