リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
給湯室から牧野とともに戻ると、部長からの差し入れというどら焼きが一つ、各自の机に置いてあった。
小ぶりながらも、小倉あんがぎっしりと挟んであることを窺わせるずっしり感があるそれは、スーパーマーケットなどに並ぶ大量生産品のそれとは、明らかに違う手作り感があった。
松山が、今の客先の近くに、おいしい和菓子屋があると言っていたことを思い出した明子は、怒り心頭中の大男を宥める餌にしようと、部長が買ってきたに違いないと想像し、部長にまでそんな気遣いさせて、しょうがない人なんだからと、思わずその口元を綻ばせた。
あまり甘いものが得意ではない小林が、自分の分を牧野に渡しているのが見えた。
ぶんぶんと、鞭のように振り回されているドーベルマンの黒い尻尾が見えるようだった。
君島もすでに会議室を出で、机に座っている。
お茶を渡しながら、何気なく沼田を見ると、なんとも言えない神妙な顔つきになっていた。
二人で残った会議室で、どんな話をしたのかは判らない。
おそらくは、沼田の大塚に対する誤解を解いていたのだろう。
そんなことを思っていると、顔を上げた沼田と目が合った。
その目を見て、明子はアレを渡してあげようと思いつき、机の引き出しを開けた。
牧野から渡されたメモリースティックを手に取ると、沼田に歩み寄った。
「沼田くん。これ」
明子が差し出たそれを、沼田は不思議そうに眺めて受け取った。
「これは?」
「大塚さんから預かったの。今回使わせて貰った資料も入ってる。勉強になるから、時間があったら目を通しておくといいかも。大塚さんが戻ってきたら、沼田くんから返しておいて」
お願いしますと告げた明子に、沼田はますます、混乱と困惑が混ぜ合わさったような顔になる。
そんな沼田に目を細くして笑顔を作り、明子はこくんと頷いてみせた。
何度も瞬きを繰り返し明子を見つめていた沼田は、やがて小さく頷いて、それを自分のパソコンに差した。
幸恵がその隣で唇を噛み締めているような気がしたが、明子は気にも留めなかった。
君島の前を通った一瞬、席に戻る明子に礼で告げるように、君島は軽く右手を上げた。
「でも、ほんと急ですよね?」
「おめでたとか?」
そんな言葉が、木村の近くから聞こえてきた。
小ぶりながらも、小倉あんがぎっしりと挟んであることを窺わせるずっしり感があるそれは、スーパーマーケットなどに並ぶ大量生産品のそれとは、明らかに違う手作り感があった。
松山が、今の客先の近くに、おいしい和菓子屋があると言っていたことを思い出した明子は、怒り心頭中の大男を宥める餌にしようと、部長が買ってきたに違いないと想像し、部長にまでそんな気遣いさせて、しょうがない人なんだからと、思わずその口元を綻ばせた。
あまり甘いものが得意ではない小林が、自分の分を牧野に渡しているのが見えた。
ぶんぶんと、鞭のように振り回されているドーベルマンの黒い尻尾が見えるようだった。
君島もすでに会議室を出で、机に座っている。
お茶を渡しながら、何気なく沼田を見ると、なんとも言えない神妙な顔つきになっていた。
二人で残った会議室で、どんな話をしたのかは判らない。
おそらくは、沼田の大塚に対する誤解を解いていたのだろう。
そんなことを思っていると、顔を上げた沼田と目が合った。
その目を見て、明子はアレを渡してあげようと思いつき、机の引き出しを開けた。
牧野から渡されたメモリースティックを手に取ると、沼田に歩み寄った。
「沼田くん。これ」
明子が差し出たそれを、沼田は不思議そうに眺めて受け取った。
「これは?」
「大塚さんから預かったの。今回使わせて貰った資料も入ってる。勉強になるから、時間があったら目を通しておくといいかも。大塚さんが戻ってきたら、沼田くんから返しておいて」
お願いしますと告げた明子に、沼田はますます、混乱と困惑が混ぜ合わさったような顔になる。
そんな沼田に目を細くして笑顔を作り、明子はこくんと頷いてみせた。
何度も瞬きを繰り返し明子を見つめていた沼田は、やがて小さく頷いて、それを自分のパソコンに差した。
幸恵がその隣で唇を噛み締めているような気がしたが、明子は気にも留めなかった。
君島の前を通った一瞬、席に戻る明子に礼で告げるように、君島は軽く右手を上げた。
「でも、ほんと急ですよね?」
「おめでたとか?」
そんな言葉が、木村の近くから聞こえてきた。