リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「おばちゃん、ずっと看護士していたから、お医者さんが話すより先に察してて」
「彼女。幼馴染みなんだよね、確か」

以前、木村から聞かされた話を思い出しながら、明子は木村にそう尋ねる。
木村は、こくんと照れくさそうに頷いた。

「保育園からずっと一緒で。おばちゃんなんて、もう一人の母ちゃんみたいだから、なにか親孝行できるかなあって考えて、よし、結婚式を挙げようって。彼女の白無垢姿を見せてやろうって」
「そりゃ、いい親孝行だ」

川田が「偉いぞ、木村」と、そう明るく声を掛ける。
木村はまた照れくさそうに、えへへと笑う。

「最初は、身内だけで、すぐに式を挙げちゃおうかって話してたんですけど、おばちゃんがイヤだって言いだして。結納もちゃんとして、友だちとかもみんな呼んで式を挙げて、楽しい披露宴やりたいって。なんか、夢だったらしいです。娘と一緒に結納の品物を買い揃えたり、一緒にドレスとか選びに行ったり、娘の紋付の着物とか仕立てるついでに、自分もこっそり作りたいとか」
「それ、すでにこっそりじゃないだろう」

小林が努めて明るい声で笑いながら、木村の言葉をそう混ぜっ返す。

「ホントに。聞いてて、僕も笑っちゃいましたよ。おばちゃん、それ、バレバレになっちゃったよって。結婚前に家族で旅行もしたいとか言うし。なんか、やりたいことが沢山あったみたいで、神様もそれくらいの時間はくれるわよって笑って言うんで、じゃあ、やりたいことやって楽しもうかって」

えへへ。人生最大のイベントを、みんなで楽しむことにしました。
そう笑う木村の横顔は、とても楽しそうで、どこか悲しそうだった。
それでもなにかを乗り越えていくことを決意した強さが、その瞳にはあった。
明るく、さらりと、木村は告げた。
けれど、そこに至るまで、どれだけの葛藤がそこにあったのだろうかと考えると、明子の瞳が潤み始めてくる。
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