リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「うそつけ。そんなとこ、見たことないぞ」
「見たことないって言われても。昔はよく叩いてましたよ。残業中に」

胡散臭そうな目で明子を見てから、小林は首を捻って君島と目を合わせる。
それを見ながら、明子は「本当ですよー」と小林に訴えた。

「土曜日に久しぶりに叩いたら、昔より、ガッチガチでバキバキでしたよ」
「土曜って……。ああ、休出したんだっけ」
「ええ。いろいろ、お弁当の件とか土建屋さんの件とかで、がっつりクレームを入れたら、へらへら笑ってるんで、とーって背中に思い切りグーパンチしたら、肩を叩けって。もう。腕がパンパンになっちゃいましたよ」

膨れている明子の顔に、ようやく誤魔化しているわけではないという結論に至ったらしい小林は「なんだかなあ」と、呆れ混じりのため息を零す。
君島は、くつくつと肩を揺らして笑っていた。

「なんなんですか、もう」

君島のその含み笑いに、明子はさらに頬を膨らませ「何を笑っているんですか」と、拗ねたような声で君島に尋ねる。

「あいつ、大嫌いなんだよ。肩と首とか、人に触られるの。だから、整体とかも大嫌いでな。絶対に行かないんだ」
「ええーっ それって本当だったんですか? 私も言ったんですよ。土曜日。あんまりにもひどいから、整体とか行ったみたらどうですかって。そしたら、触られるのが嫌いって。なに言ってんですかって笑いましたけど」
「俺が触っても、悲鳴を上げて怒鳴るぞ。多分」
「へえ」
「でも、お前さんには、肩を叩かせるんだ?」
「……ですね。なんででしょ?」

君島の言葉にも、はてと本気で不思議そうに首を傾げている明子に、小林はやってられんというように手を上げた。
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