リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「朝。吉田係長に言われたんです。お前なんか、ただのコマだって。牧野さんに利用されてるだけだって」
「あんなの真に受けるなよ」

小林が驚いた顔で明子を見て「そんなこと、あるはずないだろう」と、明子に言い聞かせるように声をかける。
あの場にいなかった君島は、聞かされたその言葉に忌々しそうに舌を鳴らして、重い息を吐き出した。
明子は作り笑顔で、小林に頷いた。

「判ってます。大丈夫ですよ。それに、そういうことを言われるの、初めてじゃないし。昔も、よく言われてました」
「誰に?」

初めて聞く話だというように、小林も君島も眉をひそめて明子を見ていた。

「いろんな人に。そんな頑張ったって、どうせ牧野の手柄にしかならないのに、バカだなって。いいように使われて、バカなやつだなって」
「んなことあるか。お前のことだってちゃんと評価していたぞ、笹原さん」
「そんなこと言ったって。そういうことを言う人、けっこう、いたんですよ。私だって、まだ今の木村くんより若かったんですよ。先輩たちにそんなこと言われれば、傷つくし、考えちゃいますよ。そうなのかなあって」

君島が手を伸ばし、明子を慰めるように頭を撫でた。

「女の子たちにも、よく、不思議がられてました。牧野さんって厳しいところはあるけど、小杉さんにはとくに厳しいよねって。なんか、男の人みたいに、仕事させるよねって。女の子って感じの扱いじゃないよねって」
「それは、お嬢さんが気に入られたからだよ。基本、気に入ったやつには、手加減なく厳しくて、その上、とびっきり甘いんだ、あいつは」

その振り幅に慣れるまでが大変なんだよ、あれに気に入られると。
小林が苦笑交じりに、明子にそう言って聞かせた。
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