リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「なんで、ホテルですか?」

明子の呆れ声と胡乱な視線に動じることなく、小林は変わらない軽妙な口調で答えていく。

「飲みすぎて、帰るのが億劫で、どうするべって。とにかく眠いから、とりあえず、休憩していくかって」
「だからってな。場所を選べよ、お前らも」
「まさかと思いますが、その手のホテルとか」
「大当たり。二人で広い風呂に入って、デカいベットで、大の字になって寝てきたぞ」

わははと、悪びれる様子もなく状況を説明する小林に、明子と君島は顔を見合わせ、やれやれと笑いあった。

「やっぱり、火の元があったんだろうが。まったく」
「わはは。だな。顔だけなら、そこらの女よりよっぽどキレイな顔してっからな。あの寝顔を見て、酒飲んでグダグダの俺の理性が、よくムラムラとしなかったよな」

君島が「お前は、バカか」と言いながら、肩を揺らして笑い出した。

「小林さん。それを、誰かに言いませんでしたか、もしかして」
「言ったな。いろんなやつに、あっちこっちで、言った」
「だから、そんなうわさになってんじゃないですか。身から出たサビですよ」
「だな。つーかよ。君島。笑っているけどよ、お前も、そんなうわさがあっただろうよ」
「ははは。あったな。そういえば。かみさんとちょいと別居していたころな。別に、お前みたい既成事実なんか、なんにもないんだけどな。なんか、俺の別居とあいつの離婚が妙にくっついたな」
「そっちのほうが、生々しいだろよ」

君島の笑い声を聞きながら、明子はまた君島の広い背中を叩き出した。
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